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神経生理学研究チーム

2020年4月に新研究室をスタートしました→並木研

メンバー

  • 並木 重宏,准教授
  • 学術支援員1名

研究内容

行動の機構

昆虫の脳において,目標にたどりつくための定位行動の司令が,どのように形成されているのかを明らかにします.定位行動の司令において,昆虫では側副葉とよばれる脳領域が中心的な役わりを持つことが知られています.行動の際に,側副葉からの出力信号は,しばしば左右いずれかが排他的に活動し,電子回路の「フリップフロップ」と同様の性質を示す.フリップフロップ信号の利用は,昆虫では唯一,カイコガにおいて報告されています(図1,2).しかし,この信号を生成するしくみ自体は明らかになっていません.ここでは,カイコガの側副葉に着目し,単一の神経細胞レベルと,ネットワークレベルの両面から,信号生成のメカニズムを探求します.さらに回路の入出力を同時にモニタし,側副葉の多細胞活動を計測することで,生物の神経ネットワークがフリップフロップ信号を生成する過程のプロセスを明らかにします.

図1.カイコガ脳のフリップフロップ信号.A.フェロモンを受容した後,カイコガは左右への旋回行動を繰り返す.B.神経応答の計測.左右の脳からの神経束を吸引電極で記録する.C.フェロモンを与えた際のフリップフロップ神経応答.フェロモンの入力によって活動状態が高い状態(’UP’)と低い状態(’DOWN’)の二状態が切り替わる.左右の活動状態は互いに反転している.D.カイコガ脳と側副葉の場所.フリップフロップ応答を示す細胞は,すべて側副葉に神経支配をもつ.
図2.フリップフロップ神経応答.A.Down状態からUP状態への遷移.各試行の発火タイミング(上段)と平均発火率の時間変化を示す(下段).

参考文献:

・Namiki S*, Kanzaki R (2018) Morphology of visual projection neurons supplying premotor area in the brain of the silkmoth Bombyx mori. Cell Tissue Res 3:497-515.
・Namiki S*, Wada S, Kanzaki R (2018) Descending neurons from the lateral accessory lobe and posterior slope in the brain of the silkmoth Bombyx mori. Sci Rep 8:9663.  
・Ñamiki S, Fujii T, Shimada T, Kanzaki R (2017) The morphology of antennal lobe projection neurons is controlled by a POU-domain transcription factor Bmacj6 in the silkmoth Bombyx mori. Sci Rep 7:14050.   
・Namiki S*, Iwabuchi S, Kono PP, Kanzaki R* (2014) Information flow through neural circuits for pheromone orientation. Nat Commun 5:5919.   
・Takasaki T, Namiki S, Kanzaki R*. (2012) Use of bilateral information to determine the walking direction during orientation to a pheromone source in the silkmoth Bombyx mori. J Comp Physiol A 198:295-307. 
・Namiki S, Kanzaki R*. (2011) Heterogeneity in dendritic morphology of moth antennal lobe projection neurons. J Comp Neurol, 519:3367-3386.      
・Namiki S, Iwabuchi S, Kanzaki R*. (2008) Representation of a mixture of pheromone and host plant odor by antennal lobe projection neurons of the silkmoth Bombyx mori. J Comp Physiol A 194:501-515.   

はばたき飛行

45番は,これまで明らかにされていなかった飛行制御のダイレクトパーセプションを担う本体,「オプティカルフローの高次変数を飛行の運動系へ伝達する細胞」であると考えられ,この仮説を光遺伝学・生体イメージングを用いて検証します. 翼の迎え角が大きくなると,翼上面の空気の流れは剥離して揚力が減少します(失速,stall).航空機では避けるべき事態ですが,動物のはばたき飛行ではこれを積極的に活用しています.失速の最初の段階で前縁渦(leading edge vortex, LEV)が生じ,短い間揚力が発生しています.動物の速いはばたきのストロークでは,渦が離れる前にはねを回転させて,揚力の減少を防いでいます.こうしたエアロダイナミクスを操る神経機構の理解は,小型自律飛行体のデザインについてヒントを与えるかもしれません.

ショウジョウバエを用いた研究で,新たに特定されたニューロン45番はその活動によって,はばたきの迎え角(angle of attack, AoA)や振幅(wingbeat amplitude, WBA)を増大させます.仰角は揚力,振幅は前方への推進力に寄与し,45番は飛行のコントロールに寄与すると考えられます.さらに,動物の飛行制御に支配的な役割を持つオプティカルフローへの応答性を示し,方向検出器(elementary motion detector, EMD)の最終段階であるロビュラプレートからの入力を受け,飛翔の運動系へ直接連絡しています.45番は他の多くのタイプと異なり,約20対の細胞集団であり,より精緻なコントロールに関与することが推察されます.

図.はばたき飛行計測装置.ハエのはばたきを赤外線によってモニタし,LEDパネルに反映させるバーチャルリアリティ環境を作る.
図.45番の活性化によるはばたき変化.8回の羽ばたきを示す.

参考文献:

・Ache JM, Namiki S, Lee A, Branson K, Card GM* (2019) State-dependent decoupling of sensory and motor circuits underlies behavioral flexibility in Drosophila. Nat Neurosci, in press
・ Zacarias R, Namiki S, Card G, Vasconcelos ML, Moita MA (2018) Speed dependent descending control of innate freezing behavior in Drosophila melanogaster. Nat Commun 9:3697. 
・ Namiki S, Dickinson MH, Wong A, Korff W, Card GM* (2018) The functional organization of descending sensory-motor pathways in Drosophila. eLife 7:e34272. 
・ Cande J, Namiki S, Qiu J, Korff W, Card GM, Shaevitz JW, Stern DL, Berman GJ (2018) Optogenetic dissection of descending behavioral control in Drosophila. eLife 7:e34275. 
・ von Reyn CR, Nern A, Williamson R, Breads P, Wu M, Namiki S, Card GM* (2017) Feature integration drives probabilistic behavior in the Drosophila escape response. Neuron 94:1190-1204.  
・ Court R, Armstrong D, Borner J, Card G, Costa M, Dickinson MH, Duch C, Korff W, Mann R, Merritt D, Murphey R, Namiki S, Seeds A, Shepherd D, Shirangi T, Simpson J, Tuthill J, Truman J, Williams D. (2017) A Systematic Nomenclature for the Drosophila Ventral Nervous System. bioRxiv 122952. 

神経系の進化

脳は環境への高度な適応を可能にすると同時に,最もエネルギーを消費する器官であると考えられています.高等とされる動物はしばしば大きな神経系をもつが,その維持に多くのエネルギーを消費していることになります.神経系のサイズの意味するところについては議論が続いていますが,高度な脳機能を反映すると考えられており,神経系の機能や多様性を調査するための,簡便で有用な手掛かりであるといえます.

これまでにさまざまな動物種の適応と神経系の性質との対応関係が明らかにされています.多くの動物は,精巧な器官を有し,脳ではしばしばこれに対応した脳領域の拡大が起こっています.ヒトの手は高度に発達した器官ですが,脳内の体性感覚野をマップした脳地図にみられるように,手に対応する情報を処理する領域が,身体の他の部分に比べて拡大しています.ホシバナモグラCondylura cristataは,周囲の環境を把握するための,発達したピンク色の星形の触覚器官である「星鼻」を持っていますが,この器官からの触覚情報を処理する大脳皮質領域が,同様に拡大しています.また,楽器の演奏に関わる技能の学習に伴って,聴覚皮質とともに,運動皮質のサイズも拡大しています(Hyde et al., 2009).これらの事例は,特殊化した感覚機能・運動機能の発達が,脳領域の拡大と関係することを示唆しています.

 進化の過程で起こった感覚器官の特殊化に伴い,神経回路はどのように変わってきたのか.顕著な感覚器官をもつ昆虫の神経系を調べることで,感覚器の発達と神経回路の関係を探ります.

図.発達した触角に対応した神経系の拡大.シンプルな糸状の触角をもつイネヨトウと,発達した双櫛歯状の触角をもつシンジュサンについて, 感覚中枢を比較した.フェロモンを処理する領域をカラーで示す.

参考文献:

・ Nirazawa T, Fujii T*, Seki Y, Namiki S, Kazawa T, Kanzaki R, Ishikawa Y (2017) Morphology and physiology of antennal lobe projection neurons in the hawkmoth Agrius convolvuli. J Insect Physiol 98:214–222.    
・ Namiki S*, Daimon T, Iwatsuki C, Shimada T, Kanzaki R (2014) Antennal lobe organization and pheromone usage in bombycid moths. Biol Lett 10:20140096.   
・ Namiki S, Fujii T, Ishikawa Y, Kanzaki R*. (2012) The brain organization of the lichen moth Eilema japonica, which secretes an alkenyl sex pheromone. NeuroReport 23:857-861.    
・ 並木重宏,関洋一,神崎亮平 (2017) 虫にみる神経構築のレイアウト.生物科学.農文協 69:43-52. pdf  

匂いのアンタゴニズム

嗅覚には,視覚や聴覚と比べ桁違いに多い種類のセンサーがあります.他のモダリティのように連続的な物理量に対応しないため,信号のわずかな変化がコミュニケーションに影響を与えることが多く,種の多様化の要因になっています.実際に,嗅覚信号を種の識別に用いているコウチュウ目とチョウ目は,地球上で最も多様化したグループとなっています.多くの場合,フェロモンは複数の成分から構成されており,それぞれの成分は種間で重複して使用されていることも多いです. 異種のフェロモンによって行動が抑制される現象をアンタゴニズムとよびます.アンタゴニズムは,混信を避ける機能をもち,ガ類にみられる多様性の要因となっています.多様な種が混在する環境下で,異種のフェロモンによって性フェロモン行動が抑制されるアンタゴニズムの機構は,生殖隔離において重要なプロセスになります.フェロモン情報経路のいずれかにおいて,アンタゴニストによる神経活動の抑制が起こり,行動の抑制を実現するという仮説に基づき,フェロモン情報経路における神経活動抑制の作用点・作用機序を検討することにより,匂いのアンタゴニズムが脳のどこでどのように起こっているかを明らかにします.


図.匂いのアンタゴニズム.同種のフェロモンに,他種のフェロモンが混ざると,配偶行動が抑制される.

鳥の出現に夜に進出したグループがガ類であるといわれています.視覚に頼らず,フェロモンによるコミュニケーションを発達させました.メスからの脂肪酸由来の化合物であるフェロモンは,オスの触角にある受容体によって検出され,定位行動が引き起こされます.フェロモンの信号は,専用の嗅覚受容体で検出され,脳の感覚中枢である触角葉に送られ,その後,特化した神経回路(フェロモン情報処理経路)によって処理されます. アンタゴニスト情報処理経路からフェロモン情報処理経路への,神経活動の抑制がアンタゴニズムの作用機序であると考えられています.しかし,高次中枢におけるアンタゴニストの情報処理経路は未だ明らかにされていません .

図.匂いを処理する神経回路.A.カイコガの中枢神経系. B.カイコガの脳内の匂い情報経路.4つの直列した神経回路から構成される.C.匂い情報経路を構成する代表的な神経細胞の形状.

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